抄録
陰生植物の葉は,陽生植物の葉と比べ低い呼吸速度を示し,光の制限される林床でも正の炭素バランスを維持するのに役立っている.さらに陰生植物クワズイモの葉では,ATP合成とは共役しないシアン耐性呼吸経路(alternative oxidase: AOX)がほとんど働いておらず,エネルギー的に効率よい呼吸系が実現されている.本研究では,陰生植物の葉におけるAOXの制御機構とその役割を調べるために,単離ミトコンドリアを用いて詳細な生化学的解析を行った.その結果,クワズイモの葉のAOX活性が低いのはAOX量が少ないためではなかった.クワズイモの葉のAOXは活性化を受けると高い酸素消費活性を示した.通常の光環境条件ではクワズイモの葉のAOXの酸化還元状態は不活性化状態(酸化状態)になっていたが,光阻害を引き起こす強い光条件でクワズイモを栽培すると,AOXは活性化状態(還元状態)になり,in vivoでは高い酸素消費活性を示すと考えられる.陰生植物は通常林床などの薄暗い環境に生育しているが,林冠木の倒壊などにより非常に強い光にさらされることがある.そのようなとき呼吸系全体が還元状態になり,活性酸素の生じやすい不安定な状態に変化すると考えられる.活性化されたAOXは呼吸系の安定化に働いていると思われる.