抄録
光励起エネルギーの移動の過程で生じる一重項酸素は、種々の生体分子を標的にする酸化力の強い活性酸素種である。従来、光化学系IIの光阻害のメカニズムとして、励起した三重項状態の反応中心クロロフィルが励起エネルギーを酸素分子に渡し、生じた一重項酸素がD1タンパク質等を攻撃して光化学系IIを失活に導く、という説が数多くのin vitro実験により提唱されてきた。しかし、このメカニズムが実際in vivoで起こっているかどうかは不明である。私たちは、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803を用いて一重項酸素の作用機構をin vivoで詳細に検証した結果、一重項酸素は光化学系IIに直接損傷を与えるのではなく、光によって損傷を受けた光化学系IIを修復するプロセスを阻害することを見い出した。さらに、それが光化学系IIの修復を担うD1タンパク質の新規合成の阻害に起因し、特に翻訳の過程が一重項酸素の最初の標的になっていることを明らかにした。光化学系IIの光損傷のメカニズムについても新たなモデルを挙げて議論する。