抄録
穂ばらみ期、とりわけ小胞子初期の冷温による花粉の発育障害は、産業的にも非常に深刻なイネの冷害をもたらす。冷温障害発生メカニズムに強くリンクする遺伝子を特定し、その機能を解明することを目的として、花粉母細胞期から小胞子中期までの葯発育過程で発現し、冷温ストレスによって変動する遺伝子群の発現パターンをマイクロアレイ技術により網羅的に解析した。その結果、最高冷温感受性期である小胞子初期から冷温耐性を獲得していく小胞子中期にかけて、冷温に応答して多様な遺伝子群の発現増加・減少が起こっていることが明らかとなった。それらの中で、ジャスモン酸合成酵素遺伝子が小胞子初期の冷温によって顕著に発現レベルを低下させること、逆に、ポリアミン合成酵素遺伝子が小胞子初期の冷温によって顕著に発現レベルを上昇させることを見いだし、遺伝子全長の構造解析および発現様式の解明をおこなった。これらのイネ葯冷温ストレス応答遺伝子及び、ジャスモン酸、ポリアミンが冷温下の花粉形成機能の維持あるいは花粉発育障害発生機構において重要な役割を果たしている可能性が考えられる。