抄録
冬季に-80℃以下の高い凍結耐性を獲得するクワ(Morus bombycis Koidz.)皮層柔細胞では、秋から冬にかけての季節的低温馴化に伴い、可溶性画分に18kDの分子サイズを有するタンパク質(WAP18)の蓄積が見出される。精製したWAP18は、in vitroに於いて凍結・融解による乳酸脱水素酵素活性低下を防止したことから、WAP18はクワ皮層柔細胞が獲得する冬季の凍結耐性獲得に、何らかの形で貢献するものと推測される。cDNAクローニングにより、WAP18はPR-10/Bet v 1ファミリーと高い相同性を有することが示された。ノーザン解析を行ったところ、WAP18遺伝子は、4℃の低温処理のみならず、wounding、エテフォン、およびサリチル酸による誘導が見られた。
一方、PR-10/Bet v 1ファミリーはその推定されるアミノ酸配列から、細胞質に局在すると推測されているが、正確な細胞内局在は示されていない。そこで、WAP18のクワ皮層柔細胞における細胞内局在を、免疫電子顕微鏡法を用いて観察したところ、細胞質と核に金コロイド標識が見いだされた。このことから、PR-10/Bet v 1ファミリーは細胞質と核に局在することが示唆された。