抄録
プトレッシン,スペルミジン,スペルミンなどのポリアミン類は,植物を含むすべての生物における様々な生理現象や発育過程に影響を及ぼす低分子の有機陽イオンである.近年,タバコモザイクウイルスに感染したタバコ葉では細胞間隙のスペルミン量が増大し,さらに健全なタバコ葉にスペルミンを処理すると,PR遺伝子群が誘導されることが報告された.このことは,スペルミンが病原菌抵抗性にも密接に関与していることを示すものと思われた.そこで,我々は植物におけるスペルミンの作用に着目し,スペルミン処理したタバコ葉から作製したcDNAライブラリーを使用し,ディファレンシャル・スクリーニングを行なった結果,HRのマーカー遺伝子であるHIN1が単離された.HIN1の発現誘導はスペルミン特異的であり,スペルミンの前駆体であるプトレッシンやスペルミジンでの発現は起こらなかった.さらにスペルミンによるHIN1発現は抗酸化剤を前処理することにより抑制された.これらの結果から,スペルミンによるHIN1遺伝子の発現誘導のシグナル伝達過程には活性酸素種が関与していることが示唆された.