抄録
植物の葉においてアントシアニンの合成が誘導され蓄積していく紅葉過程は我々にとって非常に身近な現象でその研究は古くから行なわれているが,温度、光、水分などの様々な外的要因が絡みあっていることから、その機構や要因については未解明な点が多い。当研究室において、トレニア (Torenia fournieri Lind) をトランスジェニック植物のモデルとして、花における様々な遺伝子の発現制御を調べてきた.そこにおいて、トレニアのリーフ・ディスクからのシュート再生において、高濃度のショ糖を含む培地に移植することによって、アントシアニン合成を誘導するモデル実験系を確立した。またこの系において、低濃度のショ糖を含む培地においてもアブシジン酸(ABA)がアントシアニン合成を誘導することを示した。そして、アントシアニン合成誘導過程における再生シュート内の内生ABA量の定量を行ったところ、アントシアニン合成が誘導される前に内生ABA濃度の一過的上昇見られた。さらに一旦ショ糖濃度を上げた後、アントシアニン合成が誘導される前にショ糖濃度を下げた場合においては、ABA濃度の低下が見られアントシアニン合成は誘導されない事が分かった。これらの結果から、ABAがアントシアニン合成に重要な役割を果たしている事が示唆された。