抄録
イネフィトクロム欠損変異体se5は極端な早咲きで、光周性を示さない。このことは、短日植物イネの花芽形成における赤色光・近赤外光シグナルの重要性を示しているが、イネの花芽形成・光形態形成における青色光の作用はほとんど解析されていない。そこで、我々は優れた単色特性を持つ半導体発光素子を用いて、青色光・赤色光に対するse5の光形態形成、花芽形成応答、出葉頻度について解析した。
各種光条件下での、第2葉・第3葉の葉鞘・葉身長の測定の結果、赤色光下では、se5の葉が野性株よりも伸長するのに対し、青色光下では逆にse5の葉長が野性株より減少することが明らかとなった。この反応は赤色:青色比率に依存的に変化し、葉鞘と葉身における応答にも差が認められた。また、赤色+青色光下では、se5は野性株に対し白色光下と同様の早生形質を示すが、赤色光単色下ではse5および野性株ともに開花遅延した。この結果は、長日植物シロイヌナズナが青色光による花芽形成の促進にフィトクロムを介した赤色光信号伝達を要求することと好対照である。また、赤色単色光下においてはse5の出葉頻度が野性株よりも遅延し、この遅延は青色光の添加により野性株と同等に回復した。イネのプラストクロンへの光信号の作用が示唆された。
これら結果をもとに、イネにおける赤色光・青色光による葉の伸長、花芽分化、プラストクロンの制御についてシロイヌナズナの知見と比較しながら考察する。