抄録
ムジナモは、かつて、南北米大陸を除く世界各地に自生していたが、第二次世界大戦以降、自生地から次々に姿を消し、現在では国際的に絶滅危惧種に指定されている。C.ダーウィンの紹介もあり、ムジナモの形態や捕虫のメカニズムの研究が広く行われてきたが、ムジナモは栽培が難しく、極めて稀にしか花をつけず、腋芽を形成して殖え、秋に頂端部が休眠芽となり越冬し、晩春に発芽することから、年間を通して、コンスタントに実験材料としてのムジナモを得ることがこれまで困難であった。そこで、本研究では、in vitroでムジナモの培養・増殖を行い、これを野外に出して、ムジナモの消滅の原因やムジナモ保全の方策を探った。
ムジナモのシュートの先端部を切り出し0.5%NaClO3水溶液で滅菌した後、1/10 MS液体培地で培養した。ムジナモは良好な生育を続け、腋芽を形成し捕虫葉を発達させて、1ヶ月で約2倍に増え、in vitroでの系統保存が可能になった。これらのムジナモを約300個のコンテナを用いて、野外で育てたところ、活発に成長を続け、生活環を回すことができた。しかし、多くの場合、野外では藻類の繁茂によりムジナモの生育が阻害され消滅したことから、藻類が繁茂しないで、ムジナモの生育を抑制しない条件下でムジナモを育てたところ、ムジナモは成長・増殖を続け、野外でもムジナモを系統保存する道が開かれた。