抄録
サリチル酸(SA)の合成経路には、フェニルアラニンを前駆体とする経路とイソコリスミ酸を前駆体する経路が知られている。我々はタバコ(Nicotiana tabacum cv. SR-1)に、光化学オキシダントの主成分であるオゾン(O3)を曝露した時に生成するSAが、どちらの経路で合成されるのかについて調べた。播種後30日のタバコに0.2 ppmのオゾンを曝露すると6時間後に急激なSA合成が観察された。曝露6時間後では、同時にフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の活性とmRNA量、コリスミ酸ムターゼのmRNA量も顕著に増加していた。しかし、イソコリスミ酸合成酵素のmRNA量には増加が見られなかった。この結果、O3曝露したタバコでは、フェニルアラニンを前駆体としてSA合成が起こることが示唆される。次に、O3曝露によるSA合成がエチレンによる制御を受けているかについて、O3曝露時のエチレン生成が抑制された組み換え体を用いSA蓄積量やPAL活性を測定したところ、組み換え体では野生型よりSA蓄積量が少なくPAL活性も抑制された。この結果、O3曝露により誘導されるSAは、エチレンによるPAL活性の上昇によって合成が促進されると考えられる。O3曝露によるSAの蓄積により細胞死が起こることが知られているため、野生型のタバコではエチレンによりSA合成が促され可視障害が発生すると考えられる。