抄録
トリコテセンは、コムギ赤カビ病菌が産生するマイコトキシンで、麦類への感染過程で病原性因子として作用することが報告されているが、植物細胞におけるその作用についてはほとんど明らかにされていない。動物細胞では、T-2 toxin等のトリコテセンがリボソームにおけるペプチジル基の転移を阻害し、このRibotoxic Stressが引き金となり、JNKやp38MAPKの活性化やアポトーシスを誘導することが知られている。我々は、T-2 toxinがシロイヌナズナの培養細胞における蛋白質合成を阻害し、また、葉に投与した場合には、過敏感反応死のような病斑の形成を伴う細胞死を誘導し、活性酸素の生成、SA及びSAGの蓄積、自家蛍光物質やカロースの蓄積が見られることを明らかにした。一方、シクロヘキミドやアニソマイシンなどの蛋白質合成阻害剤ではこのような細胞死の誘導は見られなかった。さらに、MBPを基質としたゲル内リン酸化法により、T-2 toxinによって、1時間から6時間後に活性化される47及び44kDaMAPKの存在が明らかとなり、特異的な抗体による免疫沈降法によって、ATMPK4及びATMPK6が活性化されることが分かった。また、投与後1日から3日にかけて、PR-1遺伝子及びPDF1.2遺伝子の発現誘導が見られた。さらに、T-2 toxinのderivativeを用いて解析した結果、蛋白質合成阻害能と細胞死の誘導、MAPKの活性化及びPR-1遺伝子の発現誘導に高い相関性が認められた。