抄録
雌雄異株植物ヒロハノマンテマは性染色体をもちXY型の性決定を行う.クロボ菌に感染したヒロハノマンテマの葯にはクロボ胞子が形成される.興味深いことに,雄性決定因子がなく雄蕊が未発達な雌花(XX)にも,感染によって雄蕊が誘導される.本研究では,発芽後10日目の茎頂分裂組織にクロボ菌を感染させ,湿度100%,16度,長日条件でヒロハノマンテマを栽培した.栄養生長期に形態的変化はなかったが,花成は通常より約1ヶ月遅れて感染後3ヶ月目に開始した.花序の数と位置に変化はなかった.花の外部形態を低真空SEMと実体顕微鏡を用いて比較した.感染個体の花の基部は丈夫で花持ちがよく,偏平な葯室と太い花糸が発達し,クロボ胞子を長く保持していた.花原器の内部構造の変化とクロボ菌の局在の関係を調べるために,テクノビット切片を微分干渉顕微鏡法と蛍光染色法で観察した.未発達な非感染雌花の雄蕊原器では,胞原細胞は分化するが花粉母細胞には発達しない.また葯の側壁細胞が分化しない.感染雌花では,雄花と同様に,側壁細胞から内被・中間層・タペート組織が分化した.花の初期原器で均一に分布していたクロボ菌は,胞原細胞の間隙で数を増し胞子形成を開始した.その際,胞原細胞は花粉母細胞に分化せず,タペート組織も未成熟のまま退化した.一方,表皮・内被・中間層は形態的に正常に発達し,花糸が伸張し,花粉の代わりにクロボ菌の胞子を内包した雄蕊が発達した.