抄録
窒素過剰条件下で栽培された植物は一般に病原菌に対する抵抗力が弱く、病気にかかりやすいことが古くより知られているが、そのメカニズムについては明らかではない。そこで本研究では、植物の窒素栄養条件と病原ストレス抵抗性の関係を解明する端緒として、アンモニア過剰ストレスがシクラメンの体内代謝ならびに萎凋病菌に対する罹病性に及ぼす影響について解析を行った。
播種後約10ヶ月を経た鉢植えのシクラメン(品種:バーバーク)に2段階の濃度でアンモニア処理(50ppm, 400ppm)を行い、その2日後にシクラメン萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp. cyclaminis)の胞子を接種した。接種後1週間では、いずれの区においても病徴は認められなかったが、3~4週間を経ると明らかに高アンモニア区で萎凋病が発生し、根の切片からは接種した萎凋病菌が培地上に再分離された。アンモニア処理5日後の体内成分について調べたところ、高アンモニア処理区ではストレス応答成分のサリチル酸やプトレシン濃度が上昇しており、フラボノイド系色素のアントシアニン含量は逆に著しく低下していた。また、高アンモニア処理は根および塊茎部のグルタミン含有量の上昇をもたらしたが、その集積量は菌の接種によりさらに促進されていた。