抄録
陸上植物の大部分は土壌微生物との共生に依存している。その8割は内生菌根菌と細胞内共生するが、根粒菌などの窒素固定細菌と細胞内共生するのはマメ科を含むRosid Iに属する植物に限られる。内生菌根菌は菌糸を伸ばして細胞内に侵入するが、窒素固定細菌は植物由来の感染糸を経由して侵入する。共生体の認識機構として、感染糸経由の共生はより洗練されたメカニズムだと考えられている。感染糸形成には植物と微生物の両者の因子が重要であることが明らかになっている。
この高度に発達した共生メカニズムを解明するために、マメ科モデル植物ミヤコグサを用い感染糸形成に異常を起こした変異体の表現型を解析した。ミヤコグサの根粒形成変異体であるcrinkleの感染糸は皮層細胞に侵入して分岐する前にその発達が停止し、不完全根粒の内部には根粒菌の凝集した構造が観察された。またalb1の感染糸は未発達の根毛に形成され、膨張した形を示した。根粒形成を阻害する要因である硝酸態窒素あるいはエチレンで処理した場合、あるいは通常の感染領域における感染糸形成での停止部位にもそれぞれの変異体で観察された表現型がある割合で存在し、また、他の変異体でもそれに相当する停止部位が野生型で観察されることから、感染糸形成の様々な表現型は感染糸形成変異体におけるそれぞれの原因遺伝子によって司られていると考えられる。