抄録
中国東部沿岸の塩性土壌で成育する塩性植物のThellungiella halophilaが報告されている。T. halophilaはArabidopsisの近似種で、外観の類似以外にも、植物体が小さい、生活環が短い、自家受粉をする、多くの種子をつけるという、これまでの塩性植物にはない、非常に遺伝学的にも優れた性質を有する。さらに塩基配列レベルでArabidopsisの遺伝子と90%以上の相同性を有し、かつArabidopsisと同様の形質転換方法を応用出来ることから、ゲノム科学的、遺伝学的な手法を用いることが可能である。
T. halophilaとArabidopsisの土植え植物を500mM NaCl下で生育させたところ、Arabidopsisは完全に枯死するものの、T. halophilaはほとんど影響を受けないほど、顕著な耐塩性が観察された。本研究では、T. halophilaの耐塩性のメカニズムを解析するためにArabidopsisのcDNAマイクロアレイを用いてArabidopsisとT. halophilaの発現プロファイルの違いを調べた。遺伝子発現プロファイルの特徴と共に適合溶質の蓄積などT. halophilaの耐塩性に関わる分子生理学的な解析結果についても報告する。