抄録
人類の宇宙進出はさまざまな技術と科学を動員して進められてきた。その成果は宇宙活動の拡大にとどまらず、「宇宙船-地球号」という語に表されるように、地球の資源の有限であることを広く意識させ、また生態系それ自身の運動が生命活動を可能にするよう地球環境を維持していることを顕示している。宇宙での閉鎖生態系のエンジニアリングは、エネルギと物質と情報を生態系のサブユニットの間で受け渡し、各ユニットや生態系に内在する恒常性機能などにより安定した生命活動を実現する。生物体間の相互作用はこのエンジニアリングにとり重要な要素のひとつである。情報をコードして生成される化学種は、物質循環の回廊である大気や水の流れにより生態系内に輸送・拡散し、また化学・生物学的な過程により消滅していく。このような過程は、物質分布の境界条件が異なる閉鎖生態系ではより強調されるであろうし、閉鎖生態系を構成するにはよく検討しておく必要がある。すでに、地表の生物圏のエネルギ流や物質循環流のなかで人類の活動による部分は大きな割合を占めている。宇宙での閉鎖生態系では、地球にある膨大なシンクやストックのサブシステムを欠く上に、人間活動のプレゼンスとその制御はきわめて大きい。地球規模の生態系や環境にかかわるエンジニアリングが要請されるなかで、宇宙での閉鎖生態系の構築は、植物生理機能の解明をはじめ、そのよきテストベッドとして期待される。