抄録
種子植物の形の多様性の多くは、葉形態の多様性に起因している。近年、シロイヌナズナをモデル系として、葉形態の遺伝制御系が明らかになってきた結果、葉形態の多様性の遺伝的背景を解明する地盤が整いつつある。例えば葉の長さや幅、葉柄の有無や単葉・複葉の違い等を制御する遺伝子は、すでに単離されている。私たちが単離したROT3, AN, AN3 などはその実例である。
ところで野生植物の多様性に詳しい研究者の間では、シロイヌナズナだけを解析しても、種子植物の形態の多様性を理解するには不十分だ、と思われてきた。しかし、奇妙な形態形成を示す種の葉を解析してみても、本質的な発生プログラムは意外にシロイヌナズナと変わらないようである。例えばイワタバコ科の中には、葉ともシュートともつかない器官、phyllomorphを形成する種があるが、その発生プログラムは、シロイヌナズナで知られているシュート形成プログラムと、葉原基発生プログラムとの組み合わせとして理解できる。しかもシロイヌナズナから、phyllomorphと似た特徴を数多く示す変異体bopが単離されてきた(Ha et al. 2003)。本シンポジウムでは、これら研究の現状(Tsukaya 2002)を背景として、葉の形態の多様性をシロイヌナズナ研究からどのように解明できるか、今後の展望を議論してみたい。
Ha et al. (2003). Development 130: 161
Tsukaya (2002). http://www.aspb.org/downloads/arabidopsis/tsukaya.pdf