抄録
回旋運動とは、陸上植物の茎や根の先端が、一定の周期で円または楕円の軌跡を描く成長運動である。連続明条件で育てたアズキ上胚軸の回旋は、播種後6日目頃から始まり、第二葉の形成に伴う上胚軸の伸長停止に一致して一旦休止する。この間、上胚軸は常に伸長域と成熟域との境界付近で屈曲して回旋する。表皮細胞外側接線壁に沿った表層微小管の配向を調べたところ、屈曲域の凹側で縦方向の表層微小管を持つ細胞の割合が多かったが、屈曲に先立つ表層微小管の配向変化はみられなかった。さらに、コルヒチンやタキソールの投与により表層微小管の配向分布は乱れたが、回旋周期に変化は認められなかった。以上より、表層微小管の配向変化は屈曲の要因ではなく結果であると考えた。一方、オーキシン極性輸送阻害剤もしくはIAAの投与により、回旋周期は長くなった。茎頂直下に3H-IAAをラノリンリングとして与えたところ、屈曲域の凹側 / 凸側の分割では放射活性の分配の偏りは検出されず、前凹側 / 前凸側の分割において、前凹側により高い放射活性が分配された。そこで、表皮細胞のサイズを軸方向に沿って調べた。凹側と凸側とでは細胞サイズの変化パターンに顕著な違いは無かった。前凹側では、屈曲域の上(茎頂側)で細胞伸長が一旦停止し、屈曲域の下で伸長の急激な再開がみられた。この特徴的な細胞サイズの変化パターンが屈曲の要因であると予想している。