抄録
種々の二価金属元素の過剰により鉄が十分に供給されているにも関わらず鉄欠乏症状を呈すること(誘導製鉄欠乏)や、逆に鉄欠乏時に鉄以外の二価金属元素が過剰に吸収される現象が知られている。これらの現象は、鉄吸収に関与するトランスポーターが鉄以外の元素を吸収するために生じると考えられるが、誘導性鉄欠乏がどの元素によってどの程度誘導されるのか、またそのメカニズムについてなど、詳細は明らかになっていない。一方、Ids2 (Iron-deficiency specific clone)は、オオムギから単離した鉄欠乏応答性の遺伝子で、ムギネ酸生合成(デオキシムギネ酸の水酸化)に関与する酵素をコードしている。Ids2はネイティブホストのオオムギのみならず、鉄欠乏応答の仕組みが異なる(ムギネ酸を合成しない)タバコなど異種植物においても鉄欠乏時だけに根においてのみ発現し、その発現は遺伝子のプロモーター領域の特定の配列によって制御されている。また、このプロモーター領域をGUSレポーター遺伝子と連結したシステムによって、タバコにおける鉄欠乏状態の分子レベルでのモニタリングが可能であることが示されている。そこで我々は、誘導性鉄欠乏のメカニズム解明の一環として、このシステムを用いて各々の二価金属元素の過剰がどの程度誘導性鉄欠乏を惹起しているかGUSの活性値として相対化を試みた。本報告では、その結果について他の生理学的指標とともに議論する。