抄録
BOR1はシロイヌナズナより単離された排出型ホウ素トランスポーターである。シロイヌナズナのゲノムには6つのBOR1相同遺伝子が存在するが、このうち、最も相同性の高い(推定アミノ酸配列が91%一致)At3g62270の解析を行った。
まず、At3g62270のホウ素輸送活性を検証した。At3g62270のcDNAを発現する酵母をホウ素を含む培地で培養したところ、対照と比較して菌体内水溶性ホウ素濃度が低下した。At3g62270がBOR1と同様にホウ素の細胞外への排出能を持つことが示唆された。
次に、At3g62270にT-DNA挿入のある遺伝子破壊株の生理解析を行った。ホウ素濃度0.3μMの低ホウ素培地で破壊株を成育させたところ、野生型株と比較して根の伸長阻害、地上部新鮮重の低下、地上部ホウ素濃度の低下が観察された。表現型はBOR1破壊株より弱かった。さらに、BOR1とAt3g62270の両方の遺伝子が破壊された株を作成したところ、いずれの単一の破壊株よりも根と地上部の双方で深刻な生長抑制が観察された。一方、培地ホウ素濃度30μMのホウ素十分条件では、これらの遺伝子破壊株の生育には野生型株との違いは見られなかった。
以上より、At3g62270は低ホウ素栄養条件下で働くホウ素トランスポーターであり、ホウ素輸送の過程でBOR1とは異なる役割を担っていると考えられる。