抄録
耐塩性のヨシ(Phragmites communis)は根から吸収したNa+を茎基部で根に転流させ、Na+の地上部移行割合を低く抑える。当研究室では「根分け実験」により、ヨシではNaCl処理した根から無処理の根へNa+が移行するがイネではそのような現象は観察されないことを明らかにした。また部位別のNa+含量を測定することにより、転流は根と茎の境界から茎側1cm以内で起こることを示した。今回演者らはヨシ茎基部においてNa+転流を行うNa+トランスポーター遺伝子の有力な候補を得たので報告する。まず現在までに知られているNa+を輸送することができるトランスポーターの遺伝子から、イネの液胞膜上のNa+/H+アンチポーターであるOsNHX1と、シロイヌナズナの原形質膜上のNa+/H+アンチポーターであるSOS1を選定した。それぞれの遺伝子について相同性検索の結果からよく保存されている配列を選びPCRプライマーとした。ヨシ幼植物から合成したcDNAに対してPCRを行い、PCR産物の塩基配列を決定した。得られたOsNHX1様遺伝子断片とSOS1様遺伝子断片をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行ったところ、OsNHX1様遺伝子の発現はヨシ茎基部でNaCl処理により誘導されていた。一方SOS1様遺伝子の発現は全体に弱く茎基部よりも上部ではNaCl処理により誘導された。現在イネでの発現パターンと比較しながらさらに解析を行っている。