抄録
植物は病原菌の感染を認識すると、様々な抵抗性反応を誘導する。イネ液体培養細胞においても、イモチ病菌由来のキチンオリゴマーやセレブロシドなどのエリシターによってジテルペン型ファイトアレキシンの生産をはじめとする種々の抵抗性反応を示すことが知られている。我々は、イネの EST に対するマイクロアレイ解析から少なくとも2種類のキチンエリシター応答性 WRKY 型転写因子(OsSPF1, OsABF2 )が存在していることを明らかにしてきた。WRKY 型転写因子は、エリシター及びサリチル酸応答性遺伝子の応答配列(W-box)に特異的に結合する転写因子であり、防御関連遺伝子の発現制御に重要な役割を果たすことが知られている。推定アミノ酸配列の解析の結果、OsSPF1 は WRKY ドメインを2個持つグループI、OsABF2 はCys2His2 型WRKY ドメインを1個持つグループIIに属していた。ノーザン解析の結果、OsSPF1, OsABF2 の mRNA レベルはともにキチンエリシター処理によって15分以内に増加し始め、30分間ほどでピークとなり、以後漸減することが示された。また、イモチ病菌を接種した植物体、セレブロシド処理した培養細胞でも発現が認められ、OsSPF1、OsABF2 は病原菌感染のシグナル伝達に関与していることが強く示唆された。現在、OsSPF1, OsABF2 の標的遺伝子についても追求している。