抄録
ポリアミンは微生物から動植物に至るまで広く生体内に存在する生理活性物質である.ポリアミンは古くから様々な細胞内のプロセスに関与していると考えられてきたが,我々は乾燥,塩ストレス応答に関わるポリアミンの機能について解析を行っている.植物中に存在する主なポリアミンはプトレスシン,スペルミジン,スペルミンの3種である.これまでの解析により,プトレスシンが乾燥,塩ストレスに応答して増加し,その合成には律速酵素のarginine decarboxylase(ADC)をコードするAtADC2が重要であることが予想された.そこで,シロイヌナズナadc2-1変異体の解析を行ったところ,adc2-1変異体はコントロール植物の約25%のプトレスシン量しか蓄積せず、ストレス下での増加も起こらなかった。このことからAtADC2はストレス下だけでなく通常時のプトレスシン合成に関しても重要な遺伝子であることが示唆された。さらに,adc2-1変異体は乾燥ストレスに対する応答が遅く,塩ストレスに対する耐性が弱くなることが明らかになった.以上の結果からポリアミンの1つであるプトレスシンが,植物の乾燥,塩ストレス応答に必須な物質であり,その蓄積にはストレス応答性のAtADC2が鍵になる遺伝子であることが考えられた.現在AtADC1,AtADC2の2重変異体の解析を行っており,その結果についても合わせて報告する.