抄録
硝酸イオンの取込みは、硝酸同化経路の最初に位置し、経路全体の律速段階となっている。我々は、相同組み換えによる遺伝子機能解析が容易に行えるヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を材料として、硝酸イオン能動輸送体をコードする5つのNRT2遺伝子の発現について解析を行った。まず、硝酸イオン添加時および窒素欠乏時における発現の経時変化を調べたところ、いずれの場合にも数時間以内に5つ全てのNRT2の発現量が大きく増加し、その後減少した。このことから、5つのNRT2は全て誘導性であることが判明した。また、発現のピークに達するまでの時間はCO2濃度が高いと短縮された。さらに、暗条件では発現が抑制されたことから、NRT2の発現は炭素同化と密接に関連していると考えられる。一方、窒素同化産物がNRT2の発現を抑制することは以前より知られていたが、直接作用する物質が何であるかについては明確な解答は得られていなかった。そこで我々は、アンモニア同化に関するグルタミン合成酵素とグルタミン酸合成酵素のそれぞれの阻害剤MSXとDON を用いて発現解析を行った。その結果、5つのNRT2の発現に対するアンモニアによる抑制はMSXによって解除されたが、DONの存在下ではこの効果が得られなかった。この結果は、NRT2の発現を抑制するのはアンモニアではなくグルタミンであることを示唆している。