抄録
生体膜上にはDetergent-Insoluble glycolipid-enriched complexes(DIGs)と呼ばれる界面活性剤に不溶性の領域が存在する。ほ乳類や酵母において、DIGsはスフィンゴ脂質とコレステロールの組み合わせによって構成され、GPIアンカータンパクやイオンチャンネル等が局在し、細胞内外の情報伝達の場として機能していることが知られている。一方、植物ではこの膜領域に関してほとんど知見がないため、FT-MSなどを用いてメタボロミクスおよびプロテオミクス解析を行うことによって基礎的な情報を得ることを目的とした。
光照射下または暗黒下で培養したシロイヌナズナの細胞の粗抽出液を、密度勾配遠心分離により、界面活性剤(1% (w/v) Triton X-100)に対する可溶性の差によって分画した。得られた画分に含まれる脂質はLC-MSを用いて、またステロールや脂肪酸はGC-MSを用いて解析した。さらに、SDS-PAGEおよび等電点二次元電気泳動に供して得られたタンパク質を酵素消化し、これらのペプチドをMALDI-FT-ICRMSによって分析した。その結果、界面活性剤に可溶性の画分と不溶性の画分から得られた脂質やタンパク質の組成に顕著な差が認められた。また、DIG画分に特異的に存在していたタンパク質の内、数種の分子種について配列を同定した。