抄録
生命科学研究で広く用いられる放射性同位体標識に対し,安定同位体標識は植物をはじめとする多くの生物にとって安全かつ広範な元素種を選べるという利点がある.植物体に標識された安定同位体の化合物代謝検出,構造決定に絶大な威力を発揮する方法は核磁気共鳴(NMR)法である.特に,他の分光法は試料の透過性に限度があるものの,磁気は物質を透過するという点も特筆できる.その利点を活かせば,試料管に入るサイズの細胞・組織・個体のin vivoにおける低分子化合物の動態変化を検出することにも応用し得る.ここでは主要な代謝元素である炭素,窒素核標識に着目し,その多次元NMR解析を行った.我々は,15N標識したシロイナズナ種を収穫し,生きたままの試料を2次元NMR測定することにより,種の吸水過程や光照射後の特異的な窒素動態変化を観測することができた.また、13C標識試料では変異体と野生株の間で明確な代謝変動の差異を,高分解能で観測することができた.本発表では,これまであまり注目されてこなかった植物体への安定同位体標識化技術と,NMR法を用いた植物のメタボローム解析の有効性について議論したい.