抄録
植物は病原菌の侵入に対して、エリシターの認識、活性酸素の生成、細胞死といった防御反応を示す。しかしながら、これらの反応に関わるシグナル経路や因子については、不明な点が多い。
本研究ではイネ spl (spotted leaf) 変異体 (spl1~11) を用い、細胞死に至るシグナル経路を明らかにすることを試みた。spl変異体は病原菌感染の有無に関わらず、それぞれ特徴的な疑似病斑を形成する。したがって、これらの変異体が細胞死に至る経路に変異をもつと考えられる。そこで、これらの変異体から調整した懸濁培養細胞における、いもち病菌由来エリシター誘導性の防御反応を解析した。その結果、エリシター処理を行ったspl系統のうち、spl3における過酸化水素の蓄積量は野生株のTC65と変わらないにもかかわらず、細胞死はTC65よりも顕著に誘導されることがわかった。一方、spl7、spl11における細胞死はTC65と同程度であるにもかかわらず、過酸化水素の蓄積はTC65よりも早い時間から増加し、その蓄積量はTC65に比べ多かった。このことから、spl3は細胞死に至る経路に、spl7とspl11は過酸化水素蓄積の制御に関わる変異体であると考えられた。本発表ではイネの細胞死に至るシグナル経路について議論する。