抄録
スギ(Cryptomeria japonica D. Don)の心材にはノルリグナンと総称されるC6-C5-C6構造をもつフェノール性成分が含まれる。ノルリグナンは心材形成に伴って合成され、心材色の生成に関与していると想定されているが、その生合成酵素や遺伝子は単離されておらず、生合成経路も推定の域を出ていない。スギ丸太の乾燥過程において辺材中にノルリグナンが生成する現象が報告されている。この現象をノルリグナンの生合成機構を調べる実験系として利用できるのではないかと考え、丸太の乾燥過程において辺材で生成するノルリグナンの組成を、含水率の変化に着目して分析した。スギを伐採後、丸太を室内に放置し、伐採当日、10、20、41および70日後にそれぞれ試料を採取し、ノルリグナンおよび含水率の経時変化を調べた。辺材内方においてある種のノルリグナンが次第に増加し、含水率が伐採当日の移行材と同程度まで低下した41日後に最多となった。このノルリグナンはガスクロマトグラフィー-質量分析によりアガサレジノールと同定された。これらの結果は、乾燥過程における辺材でのノルリグナンの生成が、その生合成機構を研究するうえで有用な実験系であることを示している。