抄録
生育光条件に対するC4植物の応答機構を資源利用の観点から明らかにするために,スギモリゲイトウ(Amaranthus cruentus L. NAD-MEタイプ)を異なる光,窒素栄養条件下で栽培し,葉の光合成特性の比較を行った。
1)葉面積当りのクロロフィル量は,強光栽培個体よりも弱光栽培個体の方が多かった。この結果は,C4植物でも,弱光栽培条件では光吸収能力を高めるために集光性タンパク質複合体に多くの窒素が投資されている事を示唆している。
2)葉組織のδ13Cの値は弱光栽培個体の方が低く,C3植物の示す値に近づいた(強光栽培個体;-15‰,弱光栽培個体;-19‰,C3植物の平均値;-30‰)。また,葉面積当たりのPEPCとPPDK量は,栽培光条件によって違いはないが,Rubisco量は弱光栽培個体の方が多かった。弱光栽培条件ではC4葉の一部においてC3的光合成が行なわれている可能性がある。
3)弱光栽培個体の葉は,強光栽培個体の葉と比べて厚く,細胞のサイズも大きかった。これらの形態的特徴から,弱光栽培個体の葉では葉肉細胞と維管束鞘細胞間の機密性が大きく低下し,固定されたCO2が維管束鞘細胞から漏れやすくなっていると考えられる。
今後は,弱光栽培個体でC3的光合成が行われているかを検証し,また維管束鞘細胞からのCO2の漏れの程度についても調べる予定である。