抄録
PSIIの最大量子収率(Fv/Fm)は、光阻害の指標として広く用いられている。しかし、Fv/Fmの低下がどの程度光合成全体速度に影響するのか、高等植物においてはまったく明らかにされていない。さらに、PSIIでの電子伝達速度(J(PSII))、PSIでの電子伝達速度(J(PSI))およびガス交換速度を同時に解析した例はなく、Fv/Fmの低下が電子伝達反応にどのような影響を及ぼすのか詳しいことは分かっていない。そこで、それら3点を同時に測定する装置を構築し、15oC、1500 μmol m-2 s-1で低温・強光処理したイネの光合成特性を調べた。
Fv/Fmが低下するに伴って、大気CO2分圧下および高CO2分圧下でのガス交換速度は低下した。このときPSII量子収率(ΦPSII:ΔF/Fm')もPSI量子収率(ΦPSI:ΔAsat/ΔAmax)も低下したが、ΦPSIの低下に比べてΦPSIIの低下の程度が大きかった。さらに、J(PSII) (PFD×α×ΔF/Fm') とJ(PSI) (P700+/(ΔAmax×k)) を比較すると、Fv/Fmが低下するに伴ってJ(PSI)/J(PSII)は増加していた。このことから、低温・強光処理によりFv/Fmが低下したイネ葉において、PSI循環的電子伝達反応が起きている可能性が考えられた。