抄録
アブラナ科植物の近縁野生種であるDiplotaxis muralis (mur) (細胞質提供親)に対して,Brassica rapaを核親に用いて反復戻し交配を行い選抜した雄性不稔系統は,mur型細胞質雄性不稔(Cytoplasmic Male Sterility, CMS)系統として知られている.このmur型CMS系統に見られる雄性器官の発育異常は,核と細胞質の不和合によるものと考えられている.本研究では,核と細胞質の不和合が植物体に与える影響を分子レベルで解明することを目的として,ミトコンドリア遺伝子の発現を解析した.すなわち,核親であるB. rapa(N-Yukina, N-Kabu, N-Hakusai),細胞質提供親であるmur,およびmurの細胞質を持ちB. rapaの核を持つCMS系統(CMS-Yukina,CMS-Kabu,CMS-Hakusai)を実験材料に用いて,葉におけるミトコンドリア遺伝子(coxI, coxII, coxIII, cob, atpA, atp6, atp9, nad3, nad6, nad9)の発現をノーザン分析法で解析した.その結果,murに比べて,CMS系統の葉で発現が上昇するミトコンドリア遺伝子を見出した.また,葉におけるミトコンドリア遺伝子の発現はCMS系統の間で異なり,核背景に亜種特異性が認められた.我々はこれまでに,murに比べて,CMS系統の蕾で発現が低下するミトコンドリア遺伝子を見出している(Yamasaki et al. 1998).mur型CMS系統において見出されたミトコンドリア遺伝子の発現の器官特異的な変化が,植物体に与える影響について今後さらに調査する必要がある.