抄録
本研究は,植物代謝産物の動的変化を網羅的に解析し,代謝機能と遺伝子機能を関連付けるためのメタボロミクス実験基盤を構築することを目的として行った.代謝産物プロファイルはFT-ICRMS(フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析)による一斉分析結果のPCAによって得た.FT-ICRMSでは,極めて高感度(精密質量分析能1ppm以下で1000以上の質量ピーク)での組織粗抽出液の一斉分析が可能である.今回,一斉分析にはメタノール可溶性粗抽出画分を供し,特定代謝系に焦点をあてた解析例として,GC/MS, LC/MSによるシトクロムP450(P450)に関連したステロール・脂質成分のプロファイリングを行った.P450は全ての生物種に存在し,内在・外来性の脂溶性低分子化合物を基質として,モノオキシゲナーゼ活性を触媒する一群のヘム-チオレートタンパクの総称である.実際には,1)ステロール合成に関与するCYP51遺伝子へのT-DNA挿入変異を持ったシロイヌナズナ植物と,2)P450阻害剤投与したシロイヌナズナ培養細胞のメタノール可溶性画分を一斉分析し,PCAを行うことによりメタボロームプロファイルを得た.得られたメタボロームプロファイル変化と遺伝子発現,酵素阻害剤と関連する代謝経路への影響について討論する.またステロール側鎖不飽和化に関与する酵母CYP61遺伝子欠損株のステロール成分の変化と,酵母CYP61に相当する植物P450のメタボロミクスによる探索についても合わせて報告する.