抄録
アブシジン酸(ABA)は様々なストレス環境においてシグナルとして働いていることが知られている。我々は、これまでの研究で、外生的に与えたABAが低窒素栄養環境下におけるキュウリ植物(Cucumis sativus L. cv. Hokushin)の成長に関与していることを示している。しかしながら、低窒素条件下におけるキュウリの成長と内生ABAとの関係は明らかではない。そこで、本実験では、低窒素条件下でキュウリを水耕栽培し、外生的にABAを処理した場合の内生ABA量の動態を調べた。
低窒素条件下で生育させたキュウリは通常の窒素濃度で生育させた場合に比べて成長が抑制された。キュウリ地上部における遊離型ABA含量は、ABA処理の有無にかかわらず、低窒素条件下で生育させた植物の方が通常の窒素濃度条件下の植物と比較して多かった。一方、根における遊離型ABA含量は生育時の窒素濃度による影響がほとんど認められなかった。比較的高濃度のABAを処理すると、低窒素条件下で生育させた植物および通常の窒素濃度で生育させた植物の根において結合型のABAが顕著に増加した。また、いずれの処理区のキュウリにおいてもファゼイン酸は検出されなかった。以上の結果から、低窒素条件下で生育しているキュウリ植物は遊離型ABA含量を高め、その成長を抑制していることが推察された。また、過剰の遊離型ABAはすみやかに分解されるのではなく、結合型ABAとして蓄積、貯蔵されることが示唆された。