抄録
植物は様々なアルカロイドを生産するが,その細胞内輸送あるいは転流に関する分子機構はほとんど未解明である。我々は,イソキノリン系アルカロイドのベルベリンをモデルとし、これを大量に生産するオウレンにおけるその輸送機構を明らかにすることを試みた。オウレン培養細胞を用いた輸送実験の結果、ベルベリンの細胞内取り込みにABC蛋白質が関与することが示唆されたため、RT-PCRにより本細胞で発現しているABC蛋白質のcDNAをクローニングし、CjMDR1と命名した。この蛋白質は、multidrug resistance protein (mdr) サブファミリーに属する full-sizeのABCタンパク質で、分子内に2つのヌクレオチド結合ドメインと12回の膜貫通ドメインを有していた。この蛋白質をアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させたところ、CjMDR1はベルベリンを内向きに輸送する活性を示した。またその活性は、ATPに依存的であり、vanadate や nifedipine など、ヒトMDR1で知られる阻害剤で強く抑制された。Cjmdr1遺伝子は、オウレン植物体のベルベリン高蓄積部位である根茎で強く発現しており、一方ベルベリン生合成酵素遺伝子は主に根組織で発現していた。このことからCjMDR1は、オウレンにおけるベルベリンの転流に関与していることが強く示唆された。