抄録
植物はイソペンテニル二リン酸 (IPP)を基本骨格として、多様なイソプレノイド化合物を生産する。植物のIPPは動物とは異なり細胞質におけるメバロン酸経路(MVA経路)だけでなく色素体中の非メバロン酸経路によっても作られる。HMG-CoAレダクターゼ (HMGR)はMVA経路の初期段階の反応を触媒する。この酵素は動物では単一遺伝子であるのに対して、植物では複数の遺伝子によってコードされ、シロイヌナズナゲノムにはHMG1とHMG2の2つ遺伝子が存在する。植物の生長における各HMGR遺伝子の役割を解明するために両遺伝子のT-DNA挿入変異体を単離した。hmg2変異体は通常の生育条件では表現型が現れなかったが、hmg1変異体は細胞伸長抑制に由来する矮性、早期老化、不稔という強い形質を示した。これらの形質はイソプレノイド型植物ホルモンであるブラシノステロイド(BR)やサイトカイニン(CK)の減少を予想させた。しかし、MVA 経路の阻害剤投与、細胞伸長・老化のマーカー遺伝子の発現、代謝物プロファイリングなどの解析結果、hmg1変異体はBR欠損変異体でもCK欠損変異体でもないこと、さらに、細胞伸長にはBR以外のステロール、老化にはトリテルペノイドの関与が示唆された。本シンポジウムでは、hmg2変異体、HMGR阻害剤に対する非感受性変異体などの結果も併せて、植物の生長におけるトリテルペンの機能について議論する。