抄録
花を形作る遺伝子が花を獲得する以前の植物でどのような役割を担っているかを明らかにすることは、花の進化を理解する上で重要である。花の形成に必須であるMADS-box遺伝子は花のないシダ植物やコケ植物でも発現していることが報告されているが、その機能は明らかとなっていない。我々は、遺伝子ターゲティングが容易なヒメツリガネゴケを用いて、コケ植物におけるMADS-box 遺伝子の機能を解き明かすことを目的として研究を進めている。
セン類のヒメツリガネゴケには少なくとも13種類のMADS-box遺伝子が存在しており、遺伝子構造からMIKCc型とMIKC*型の2グループに分けられる。このうちMIKCc型MADS-box遺伝子であるPPM1、PPM2、PpMADS1に関して現在解析をおこなっている。各遺伝子の3’端にGUS遺伝子を挿入した系統を作出し、その発現を調べた。その結果、PPM1とPPM2は茎葉体の茎頂、造精器、および胞子体で、PpMADS1は胞子体で発現していた。このことからコケMADS-box遺伝子が生殖および胞子体の発生に関与していることが示唆される。各遺伝子破壊株においてはこれまでのところ野生株との顕著な違いは検出できていない。現在、二重および三重変異株を作出中であり、これらの解析結果と併せて報告する。