抄録
Phytosulfokine(PSK)は、植物細胞の分裂・分化に関与する硫酸化ペプチドホルモンである。ヒャクニチソウ管状要素分化系を用いた解析から、PSK の生産・分泌が管状要素分化に必要であることが初めて明らかになった。また、PSK が管状要素分化に必要な時期は培養 24 時間目から36 時間目であり、これに先立って ZePSK1 遺伝子が傷害によって誘導されることがわかった。
PSK の生理的意義を浮き彫りにするためには、PSK の阻害剤を用いた解析が有効であるが、そのような阻害剤はこれまで知られていない。PSK の生理作用には 2 つのチロシン側鎖の硫酸エステル化が必須であるため、PSK の阻害剤の候補として硫酸化阻害剤が有望である。実際に、硫酸化阻害剤は管状要素分化を阻害し、この阻害効果は PSK 添加によって回復した。分化関連遺伝子の発現解析を行った結果、本来は一過的である傷害応答性の遺伝子発現が、硫酸化阻害剤を添加すると持続してしまうこと、PSK 添加により管状要素分化が回復する際には、傷害応答性の遺伝子発現が抑制されることがわかった。以上の結果から、PSK による傷害応答の抑制と損傷からの回復が管状要素分化に必要であることが示唆された。