抄録
気孔の開閉には種々のシグナル伝達物質が関わっているが、中でもアブシジン酸(ABA)は水分の不足を感知して気孔を閉鎖させることが知られている。ABAの作用には、気孔の閉鎖以外にも種子発芽の抑制が知られているが、この過程をエチレンは負に制御することが明らかとなっている。そこで、気孔閉鎖過程においてもエチレンが関与している可能性を考え、シロイヌナズナの表皮切片を用いてエチレンの効果を調べた。光照射により気孔を開かせた表皮切片にABAを処理すると気孔が閉鎖するが、同時にエチレンガスを処理するとこの気孔閉鎖作用が抑制されることが見出された。ABA添加後の気孔の開口度の変化を経時的に測定した結果、ABA添加により気孔は5分程度で閉鎖したが、エチレン及びその前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)を処理すると、気孔が閉じる速度には大差が見られなかったが、気孔の閉鎖が途中で停止することが観察された。これらのことから、エチレンはABAによる気孔閉鎖反応を阻害している可能性が示唆された。また植物個体を用いて、乾燥条件における生重量の変化を測定したところ、エチレンガスを処理した個体では無処理の個体に比べて生重量の減少が大きいことがわかった。このことから、植物個体においても、ABAを介した気孔閉鎖をエチレンが抑制している可能性が示唆された。