抄録
植物の鉄吸収機構は、プロトンの放出による易溶化-3価鉄の還元-還元鉄の吸収というステップを経るもの(戦略1)と、ムギネ酸の生合成と放出-ムギネ酸/3価鉄複合体の吸収というステップを経るもの(戦略2)の2つに大きく分類される。本研究では、それぞれの戦略に関与する遺伝子の鉄欠乏応答性の違いを明らかにするために、タバコ二価鉄トランスポーター遺伝子(NtIRT1)とオオムギムギネ酸水酸化酵素遺伝子(HvIDS2)をそれぞれの吸収機構に関与する代表的な遺伝子として用い、その発現についてそれぞれの抽出元植物において3種類の鉄欠乏ストレス(a.完全栄養培地で一定期間栽培後ただちに鉄欠乏培地へ移植、b.同じく一定期間栽培後に根のアポプラズマ鉄を除去して鉄欠乏培地へ移植、c.同じく一定期間栽培後にただちにカドミウム100μMを添加した誘導性鉄欠乏培地へ移植)を与えて経時的な変化を調べた。その結果、NtIRT1はすでに報告のあるAtIRT1と同様に、アポプラズマに鉄のない条件では鉄欠乏条件下であっても発現が認められなかったのに対し、HvIDS2は、アポプラズマにおける鉄の有無に関わらず鉄欠乏条件下において常に発現していた。本報告ではさらに、HvIDS2p/GUS融合遺伝子をタバコに導入し、同様の鉄欠乏ストレスをかけて得られた結果を合わせて総合的な考察を行う。