抄録
一般に、遺伝的に種子色が薄い種子は休眠性が弱い。この要因として、種皮の物質透過性、物理的強度、発芽抑制物質の存在が示されているが、その詳細は明らかでない。シロイヌナズナでは、フラボノイド代謝に異常を持ち、種皮色が薄いtransparent testa (tt)突然変異体種子の休眠性低下が報告されている。私達は、野生型種子が発芽できない高温条件で発芽する突然変異体の選抜において、tt7の対立遺伝子系統を得た。そこで、フラボノイド代謝酵素をコードする遺伝子の機能喪失突然変異系統について、種子発芽の温度反応性を調べたところ、ジヒドロケルセチンまでの代謝に欠損を持つtt4-1, tt5-1, tt6-1, tt7-1の種子は高温条件で発芽したが、ジヒドロケルセチンからカテキンへの代謝に欠損を持つtt3-1およびbanyulsの種子は野生型種子と同様に発芽阻害を受けた。また、高温条件での発芽率とプロアントシアニジン含量との間に相関は認められなかった。近年、フラボノールがオーキシン輸送の内性阻害物質であることを示す報告がなされている。そこで、tt系統種子を高温条件で吸水させる際にオーキシン輸送阻害剤を与えたところ、tt4-1, tt5-1, tt6-1, tt7-1種子はNPA濃度に依存した発芽阻害を受けた。これらの結果は、胚におけるオーキシン分布が発芽の高温阻害に関与する可能性を示唆している。