抄録
一般に、種子の乾燥耐性および休眠性は、アブシシン酸(ABA)によって調節されている。その際、ABAの情報伝達にはVP1/ABI3因子が関与することが知られている。我々は、胚発生のモデル系であるニンジン不定胚からVP1/ABI3因子としてC-ABI3を単離し、C-ABI3が複数のABA誘導性遺伝子の発現を介して乾燥耐性獲得に関与することを示してきた。最近、新たにニンジン不定胚からC-ABI3と類似した配列を持つC-ABI3-like(C-ABI3-L)が単離された。C-ABI3とC-ABI3-Lの構造を比較すると、全体ではアミノ酸レベルで56%と低い相同性であったが、VP1/ABI3因子を特徴づける4つの機能ドメインは高く保存されていた。C-ABI3-Lの発現は、不定胚やembryogenic cells、発達中の種子で特異的であり、C-ABI3の発現様式と類似していた。また、C-ABI3-Lをエクトピック発現させた形質転換non-embryogenic cellsを作成し、この形質転換細胞にABA処理を行ったところ、EMB1やECP63などの複数の胚特異的ABA誘導性遺伝子の発現が検出された。これらの結果から、ニンジンではC-ABI3とC-ABI3-Lの2種類のVP1/ABI3因子が存在し、この双方が受精胚や不定胚におけるABAの情報伝達に関与している可能性が示唆された。