抄録
植物の低温馴化は、シロイヌナズナ植物体を用いて多くの現象解明がなされている。しかし、植物体が複雑な構造を持つため、低温馴化機構で最も重要な変化を解析する事が困難な場合がある。そこで、我々は、シロイヌナズナ懸濁培養細胞を用いて細胞レベルで解析を行い、低温馴化素過程を解析する事を目的として研究を行っている。これまでの解析から、本培養細胞は低温馴化を2日行った誘導期の細胞でのみ-6℃から-10℃へ凍結耐性が増大する事が明らかとなった。低温誘導性遺伝子(cor15a、rd29A)の発現量も馴化後1日でピークとなった後2日以降急速に減少し、一過的な発現挙動を示す事も判明した。さらに、細胞内浸透濃度や糖含量は馴化後4~7日に上昇し、凍結耐性とは相関しない事が示された。従って、本培養細胞が示す低温への応答は様々な点で、植物体で知られている応答とは異なっている。以上の解析結果より、低温馴化2日までの凍結耐性の増大は細胞レベルにおける応答が、2日以降に植物体で見られる増大は植物体レベルでの応答が必要である、という仮説を立てた。この仮説の検証に向け、マイクロアレイを用いて低温馴化過程で変動する遺伝子を網羅的に解析した結果、培養細胞の凍結耐性変動と相関した挙動を示す遺伝子をいくつか確認した。現在、仮説検証に向け、プロテオーム解析を行いマイクロアレイ解析の結果と比較する事を試みている。