抄録
NAC遺伝子は、植物特異的なNACドメインを持つ転写因子をコードしており、シロイヌナズナには、110個のNAC遺伝子が存在し、大きなファミリーを形成している。これまでの解析からNAC転写因子は、器官の分離や茎頂分裂組織の形成に関わるほか、ストレスやホルモン応答にも関与することが明らかになってきた。我々は、植物特異的な転写抑制ドメイン(SRDX)をNAC転写因子のC末端に融合させたキメラリプレッサーを植物で発現させ、NACファミリーの網羅的な機能解析を行っている。今大会では、葯の裂開に関与する2つのNAC遺伝子について詳細な解析をおこなったので、その結果について報告する。シロイヌナズナNAC転写因子、NAS1、NAS2にSRDXを融合したキメラリプレッサーをそれぞれのプロモーターにより植物体で発現させると、葯の開裂不全がおこり、高い頻度で雄性不稔になる。この原因について組織科学的に調べたところ、葯の内被細胞の二次壁が肥厚しないことによることがわかった。プロモーターレポーター解析によりこれらの遺伝子は、葯壁に発現していることが示唆された。また、これらの遺伝子を恒常的に発現させると地上部の様々な組織で異所的な二次壁肥厚を引き起こすことがわかった。これらの結果からNAS1、NAS2は葯内被細胞における二次壁肥厚を促進する転写因子であると推定された。