抄録
シロイヌナズナAtRAD51遺伝子はγ線やX線などにより生じたDNA鎖切断により遺伝子発現が上昇することが示されている。その遺伝子発現制御領域を利用して植物細胞内に伝達されるDNA鎖切断シグナルを可視化し非破壊的に連続観察可能な系の開発を試みた。AtRAD51プロモーターの下流にホタル由来改変ルシフェラーゼ遺伝子(Fluc+: modified firefly luciferase) を連結した融合遺伝子 (AtRAD51::Fluc+) を作製し、アグロバクテリウム法を用いて、タバコ培養細胞、タバコ植物体、シロイヌナズナ植物体に導入した。これらの形質転換体を用いてDNA傷害応答実験を行った。AtRAD51::Fluc+形質転換体にDNA二重鎖切断誘導剤であるブレオマイシンを様々な濃度で添加したところ、ブレオマイシン濃度依存的なレポーター遺伝子の誘導が観察された。また、AtRAD51::Fluc+形質転換タバコ葉に対して、各種刺激処理を行ったところ、DNA鎖切断を引き起こす刺激であるUV-Bあるいはブレオマイシン処理特異的なAtRAD51の発現誘導が観察された。一方、重金属や植物ホルモン、病害応答遺伝子誘導剤などの処理においては、植物組織への生体異物反応が観察されたもののAtRAD51の発現誘導は観察されなかった。これらの結果から、AtRAD51の発現誘導は形質転換植物葉においてDNA鎖切断刺激に特異的であり、そのDNA傷害応答制御は細胞自律的であることが示唆された。