抄録
傷害ストレスにおいて、ジャスモン酸(JA)が関与するシグナル伝達が防御反応と深く関連しており、傷害誘導性タンパク質の誘導や、アスコルビン酸 (AsA) の生体内蓄積が起こることが報告されている。AsAは植物体内で抗酸化作用などの重要な役割を持っており、さらに近年、植物ホルモンが関与する防御遺伝子の転写誘導を調節することが示唆されている。当研究室で、トマトを JA により処理したところAsAの増加が見られ、これはAsA生合成で働くL-galactono-γ-lactone dehydrogenase(GLDH)の転写量増加と活性上昇によるものであることが示唆された。GLDHはAsA生合成で代謝制御に関わる重要な酵素であると考えられており、この発現を制御することで生理作用への影響など、特に防御遺伝子の発現制御に及ぼす影響を調べることが出来ると考えた。本研究ではトマト(Micro-Tom)を用いてGLDH アンチセンス抑制体を作製し、GLDH活性及びAsA蓄積量の変化を検討した。結果、当代及び第一世代において野生株に比べて30~90%の活性を有する変異株を得た。これらの変異株におけるAsA量を測定したところ、野生株の含量に比して概して低い値を示したが、GLDH活性との相関は低かった。その事から、生体内AsA 量の調節には他の代謝経路の関与が示唆された。