抄録
イネの易変性変異体 pyl-v (pale yellow leaves variegated)は,黄色地のヴィレッセント変異の葉に細胞の系譜に沿った緑色の斑入り模様を示す.この変異体は幼苗期に黄色の葉を持ち,緑色の斑が大きい場合には生存することができる。また,葉の黄色の領域は生育とともに緑色になる.マップベースクローニングにより原因遺伝子の同定を試みたところ,新規DNAトランスポゾンの Pyl遺伝子への挿入が ヴィレッセント変異の原因であり,トランスポゾンの脱離が易変性を引き起こしていた.同定した Pyl遺伝子はプロテアーゼと予想される AtClpP5遺伝子と90%以上の相同性を持っていたことから OsClpP5と命名した.この遺伝子は葉緑体への局在化シグナルを持つことから,葉緑体でのタンパク質分解の欠損がヴィレッセント変異の原因となっていると思われるが,何故緑色が回復するのかは不明である. pyl変異体における OsClpP5遺伝子の発現は,トランスポゾンの挿入により転写開始点が後ろにずれており,生じたmRNAは翻訳開始コドンを含んでいなかった. pyl変異体で観察される幼苗期の葉緑体でのグラナ層の未発達は,緑色となった個体でも僅かにしか回復しないので,葉緑体が未発達のまま緑色が回復していることが明らかになった. OsClpP5遺伝子の発現様式と緑色回復との関連を論じる.