抄録
リンゴ酸バルブは,ストロマおよびサイトソルに局在するリンゴ酸デヒドロゲナーゼアイソザイムと葉緑体内包膜中のリンゴ酸/オキサロ酢酸輸送体により構成される.ストロマ内の還元力はリンゴ酸バルブによりリンゴ酸のかたちでサイトソルへと輸送され,サイトソル局在性酵素やペルオキシソーム,ミトコンドリアなどの細胞内コンパートメントに供給される.さらにリンゴ酸バルブは環境ストレス下で生じる過剰還元力をストロマから排出する役割も担っているが,光阻害回避にどの程度貢献しているかなどの詳細は明らかになっていない.
最近,我々はプラスチド局在2-オキソグルタル酸/リンゴ酸輸送体(OMT)の遺伝子をシロイヌナズナより同定した.遺伝子発現様式や組換えタンパク質の基質輸送特性より,OMTはリンゴ酸/オキサロ酢酸輸送体としても機能し,リンゴ酸バルブに関与していると推察した.そこで,シロイヌナズナOMT遺伝子破壊株においてリンゴ酸バルブが機能しなくなるとどのような生理変化が現れるかを調べることにより,リンゴ酸バルブの生理機能の解明を目指すことにした.これまでに,遺伝子破壊株を低温・強光ストレス条件にさらすと,野生株よりも顕著な光阻害が観察されており,リンゴ酸バルブは光阻害回避において重要な役割を担っていることが推察された.本講演では,得られた知見をもとにリンゴ酸バルブの生理機能について考察する.