抄録
光周性花成誘導において何らかのシグナルが、(1)誘導的光周期下の葉で生成され、(2)篩管を経て茎頂に伝達され、(3)茎頂で花成をひきおこす、というパラダイムが一般に受け入れられている。そのシグナルは、(4)接木面を介して供与植物から受容植物に伝達可能であるとされ、そうした性質をもつ仮想シグナルの物質的実体は「フロリゲン」と呼ばれている。しかし、物質的な同定はもとより、生理活性の部分精製もなされておらず、フロリゲンの要件たる上記の性質も状況証拠からの仮定に過ぎず、実証的・物質的な裏付けを欠く。一方、これまでフロリゲンの候補物質とされたものについては、花成との相関が示されるのみで、上記要件との適合性や花成との因果関係は検証されていない。
FT遺伝子は強力な花成促進因子であり、光周性花成に因果的に関わることが示されている。われわれは、FT遺伝子・FT蛋白質が上の要件のうち(1)と(3)に適合することを見いだした。また(4)に関して、芽生えの接木実験により、FT遺伝子過剰発現による花成促進効果が接木面を介して伝達されうることを示した。転写(と翻訳)が葉の篩部細胞でおこり、蛋白質そのものは茎頂分裂組織の細胞で機能すると考えられることから、FT蛋白質は篩管を経て葉から茎頂に伝達される(要件の(2))ことが予想される。本講演ではFT遺伝子の解析を通したフロリゲン説再評価の試みを紹介する。