抄録
【目的】我々は、フィードバック非感受性改変イネアントラニル酸生合成酵素遺伝子(OASA1D)の導入により、組織中Trp含量が100倍以上増加したイネを得ることに成功している。OASA1Dの導入がイネの代謝系全体に及ぼす影響を評価するためHPLC-PDAおよびHPLC-ESI-Q-MSを用いたノンターゲット代謝プロファイル分析を行った。
【方法と結果】発芽後2週間のイネ植物体を5倍量の80%メタノール水溶液中で抽出し、20倍に濃縮したサンプルをHPLC-PDA(波長200-400 nm)分析に供した。その結果、OASA1Dの導入はトリプトファンを除く主要な芳香族成分含量にほとんど変化を起こさないことが明らかとなった。さらに詳細な変化を調べるためにHPLC-ESI-Q-MS(島津LCMS-2010)で代謝プロファイル分析を行った。質量数100-700の範囲をスキャンし、分析計で得られたデータを自作perlスクリプトおよびCOWTOOLを用いて変換,解析して、約1600ピークを検出した.
各ピーク強度データに対して相関解析、 ANOVA、独立成分解析を行ったところ,OASA1Dの導入により含量が有意に増加する約20成分を見いだすことができた.LC-MS/MS解析からこれらの成分のいくつかはγ-グルタミルトリプトファンを始めとするインドール化合物であると同定した。またイネ植物体部位毎に比較すると、根に比べて葉の方が代謝プロファイルの変化が顕著であることが明らかになった。