抄録
光化学系IIタンパク質複合体(以下 PSII )は 14~16 種の膜貫通サブユニットと3種の膜表在性サブユニットを含む分子量約 350 kDa の超分子複合体であり、光エネルギーの吸収と化学エネルギーへの変換、および水分解・酸素発生といった一連の重要な反応を触媒している。PSII の結晶構造はこれまで 3.2~3.7 A の分解能で報告されたが、これらの分解能は PSII の全アミノ酸側鎖や Mn クラスターの詳細な構造を解明するのに充分とは言えない。我々は好熱性シアノバクテリア Thermosynechococcus vulcanus 由来 PSII 結晶のX線回折分解能を向上させるため、 PSII 標品の精製・結晶化方法、X線回折実験のための抗凍結剤等の条件を改良している。標品の精製において従来のイオン交換カラム法を改良し、PSII 二量体から微量の PSII 単量体を除去し、また、結晶化においては従来結晶成長に 10~15 日間を要した微量透析法の代わりに蒸気拡散法を用いることで、2~3 日間で結晶を析出させることに成功した。さらに低温X線回折のための抗凍結剤への置換時間を短縮する等により、結晶の分解能を 3.3 A に向上させることに成功した。本発表では PS II の結晶化の現状について報告する。