抄録
鉄イオン(Fe2+)は植物の必須微量元素でありクロロフィルの生合成などに使われている。その反面、過剰量のFe2+は細胞内でフェントン反応により活性酸素種を発生させて毒性を示す。そこで本研究ではタバコBY-2細胞を用い、細胞がFe2+の取り込みを低レベルに保つ機構について解析を行った。二価カチオンを除き1.0 mg/LのFeSO4を添加した培地にタバコBY-2細胞を移植すると、18時間後に8割程度の細胞に細胞死が見られた。この時、細胞中での活性酸素の発生が確認され、細胞周期がS期で停止し、DNAの断片化が見られた。原子吸光光度計により細胞内のFe2+量を測定したところ、Fe2+吸収量がある閾値を越えると細胞死を導くことが分かった。Fe2+は二価鉄トランスポーターにより細胞内に吸収されることが知られているが、その二価カチオンに対する特異性が低いためにFe2+の細胞内への輸送には他の二価カチオンの影響が考えられる。そこで、培地中にFe2+と同時にマグネシウムイオン(Mg2+)やカルシウムイオン(Ca2+)を添加したところ、細胞周期の停止が解除され、DNA断片化および、細胞死の頻度が減少した。その際、細胞のFe2+吸収量が減少していたことから、細胞へのFe2+輸送低下の原因としてMg2+ やCa2+などの二価カチオンとの競合阻害が考えられた。これらの結果から、培地中の二価カチオンのイオンバランスによってFe2+吸収による毒性を抑制することが示唆された。